レイ・クロック自伝「成功はゴミ箱の中に」

成功はゴミ箱の中に

レイ・クロック

ロバート・アンダーソン=共著

野地秩嘉=監修・構成/野崎雅恵=訳

プレジデント社

 

<「なぜ、マクドナルド兄弟のやり方をそっくりそのまま真似て、自分で店を開かなかったのか?」とよく聞かれる。彼らは私に経営のすべてを明らかにしていたし、確かにコピーするのは簡単だったと思う。だが正直言って、そんな考えは私の頭にはなかった。私はビジネスを、セールスマンの視点でとらえていたのだ。(中略)マクドナルドという名前は当たるという直感があった。>(P118)

マクドナルド創始者 レイ・クロックの自伝

「成功はゴミ箱の中に」(原題は”THE MAKING OF MACDONALDS”)は世界一のハンバーガー企業、マクドナルドの事実上の創業者である米国人レイ・クロック氏の自伝です。クロックは1902年、米国・イリノイ州オークパーク生まれ。高校中退後、ペーパーカップやマルチミキサーの敏腕セールスマンとして働いていました。彼の運命が大きく変わったのは1954年、52歳(!)でマクドナルド兄弟と出会ってからです。カリフォルニアの砂漠にあるサンバーナーディノという片田舎の町。そこにある<ただ八角形の小ぢんまりとしたビル>にしか見えなかったビルがハンバーガーレストランとして信じられないような大繁盛をしているのを目の当たりにして、クロックは全米にこの店をフランチャイズ展開することを決心します。それが現在、世界中にあるマクドナルドの出発点でした。

マクドナルドの創始者は「店長」ではなく「マーケター」

私がこの本を読んで一番驚いたのが、今日の世界的な企業であるマクドナルドを築いた創始者と米国でみなされているのが、マクドナルド兄弟ではなくクロックだということでした。マクドナルド兄弟が1号店の「店長」だとすると、クロックは「マーケター」だったということができるでしょう。マクドナルド兄弟が1号店で生み出した清潔なキッチン、シンプルな調理オペレーション、安くておいしいハンバーガーとフライドポテトを提供するという理念を、クロックはマニュアルとして平準化し、卓越した営業および広告戦略を駆使することで、自らの人生の後半戦で世界屈指の飲食企業にまで成長させたのです。

偉人?変人?クロックの一代奮闘記

本書ではクロックが82歳でその生涯を閉じるまで、米国のみならず世界中に“マクドナルド王国”をいかに広げていったのかを、本人の回顧によって辿ることができます。凄く面白いエピソードの連続なのですが、それらのエピソードを一人の人物像に集め合わせる限り、クロックは情熱とエネルギーに満ち溢れる“変人”だったのだろうと推察されます。例えば…

マクドナルド兄弟とは最終的に、企業の資本関係でイザコザを起こして半ばケンカ別れしています。

ビジネスで勝つためには手段を選ばなかったようで<私が深夜二時に競争相手のゴミ箱を漁って、前日に肉を何箱、パンをどれだけ消費したのか調べたことは一度や二度ではない>と誇らしげに明かしています。(本書の題名にもなっている逸話です)

かと思えば、再婚相手に!と見初めた女性に入れあげ、仕事がまったく手につかなくなるほど有頂天になったり落ち込んだりもします。

こんなエピソードに事欠かないわけで…。私はクロックの人柄や成し遂げたことを考えたとき、例えば彼に近そうな人物として、アップルの創業者・スティーブ・ジョブズを思い浮かべたりします。「マクドナルドをつくったのって、どういう人間なんだ?」とあれこれ考えながら読み進めるのが、本書の楽しみ方の一つでしょう。

アメリカンドリームを体現・実践してみせた偉人

多少(かなり?)変人だったかもしれなくても、クロックがアメリカンドリームを体現・実践した偉大な人物であったことは疑いないでしょう。クロックがマクドナルドで実践した価値観は「自助努力」「勤勉」「お金はどん欲に儲ける、ただしやましいことなく堂々と」だったと思います。

チェーン店を開きたいと希望する人間には身分、学歴、貧富を一切問わず、チャンスを与えて協力を惜しみませんでした。ハードワークで自分のお店を切り盛りした人間は、「マクドナルドの店長」として誰もがうらやむ成功を収めたそうです。セールスマンの経験からお金儲けには徹底的にこだわりましたが、巨大企業のオーナーとなってからも、店長たちからの付け届けの類いは寄せ付けず「そんなことより店の成功のために働け」とハッパをかけ続けました。

自助努力、勤勉、お金儲けは堂々と。マクドナルドは、昔も今も世界中の人々を引きつけてやまないアメリカンドリームそのもので、それを52歳という人生の後半から体現・実践してみせたのがレイ・クロックだったのです。

フライドポテトをつまみながら、本書を楽しむ

本書を手に取る機会があれば、ぜひ近所のマクドナルドでフライドポテトをつまみながら読むことをお薦めします。クロックがマクドナルドのメニューでも一番情熱を注いだのがポテトで、本書にも美味しそうなポテトの描写がいくつもあります。

<サプライヤーの一人が、ある日私にこう言った。「レイ、君はハンバーガービジネスを行っているんじゃない。フライドポテトビジネスだ。何が秘訣かは知らないが、君のところのポテトは、このあたりでは最高だよ。これを求めて客はやってくるんだ」「その通りだ」と私は言った。「だが、誰にも言うなよ!」>(P127)

仕事や学校で忙しい平日のさなかでも、あるいは何もすることがない休日でも。食べ慣れたはずの味であるフライドポテトが、本書をめくりながらつまむと少なくとも3割増しでおいしく感じる…かも…?