宗田理②「ぼくらの天使ゲーム」

ぼくらの天使ゲーム

宗田 理

角川文庫 / 角川つばさ文庫

 

「ぼくら」シリーズ第2弾となる「天使ゲーム」

前回、宗田理氏の「ぼくらの七日間戦争」を20数年ぶりに読み返して面白かったので、これをよい機会に「ぼくら」シリーズの全巻読破をすることにしました。「全巻を大きな一つの物語としてとらえる」ことを頭の片隅に置いて、読み進めていきます。

「ぼくらの天使ゲーム」はシリーズ第2弾です。菊地英治、相原徹ら「七日間戦争」の中学生たちが、夏休みを明けて迎えた2学期も大人たちを困らせる一日一善運動=天使ゲームで活躍します。物語の軸は、3年生の先輩である片岡美奈子が校舎から飛び降り自殺した真相を追うサスペンスストーリー。事件の背後から姿を現すヤクザとの対決、老人の面倒を見る施設「老稚園」開園の奮闘も織り交ぜられながら、今回も宗田らしい抜群のテンポの良さで話が進んでいきます。

”レギュラー”の固定化と、「高齢者問題」「地上げ」という社会テーマの選択

「天使ゲーム」でも、「七日間戦争」で工場に立てこもった中学生たちが引き続き活躍を演じています。だが、英治と相原の2人の主役以外の中学生たちを個々に見ていくと、その登場の頻度に濃淡が出てきています。比較すると、佐竹、小黒らがフェードアウト。一方で、安永、中尾、谷本、天野、日比野、宇野、柿沼、純子・ひとみ・久美子の女子トリオは個性や特技などが与えられて、「ぼくら」シリーズを支える”レギュラー”となる兆しがはっきりと見えます。

また、「七日間戦争」が全共闘をテーマに据えていたように、「天使ゲーム」では高齢者の増加とバブルによる地上げという2つの社会問題がテーマに設定されています。2つの問題は老稚園の開設を巡る展開に反映され、中学生たちの味方である瀬川とさよは当事者たる高齢者として立ち向かう構図になっています。

ただ、この2つの社会問題は作品の中では、根本的な解決を探られるまでには至っていません。作者の宗田としてはあくまで、作品が刊行された当時(初出は1987年)の時代背景を踏まえて、読者の子どもたちにも世相を感じとってもらうためにこれらをテーマにしただけなのではないでしょうか。この2つのテーマは「天使ゲーム」のストーリーをドライブさせるための仕掛けであり、作品自体も社会小説ではなく、「七日間戦争」と同様にジュブナイルのエンターテインメント小説として軽く楽しく読むのが適当だと思います。