宗田理③「ぼくらの大冒険」

ぼくらの大冒険

宗田 理

角川文庫 / 角川つばさ文庫

<「宇宙人は見たのか?」

「それは見てないけど、UFOをよぶことはできるぜ」

「ええッ、もしかして、おまえエイリアンじゃないのか?」

英治は背中がぞくぞくしてきた。

「まさか。ぼくはちゃんとした人間さ。だけどある日、夢の中で呪文が浮かんだんだ。それを空に向かって唱えると、UFOがやってきたんだ」

木下は、とてもうそを言っている顔ではなかった。>

(角川文庫 P30)

ぼくらシリーズ第3弾 「大冒険」

宗田理氏の「ぼくらの七日間戦争」から始まる「ぼくら」シリーズ、今回は第3弾となる「ぼくらの大冒険」を取り上げます。角川文庫の初版刊行は1989年(平1)4月。

主人公の菊地英治、相原徹らが余命が3年しかないという転入生・木下と関わることで、UFO騒動に巻き込まれます。木下が呼んだというUFOに仲間の安永と宇野を誘拐され、途方にくれる英治たち。やがて新興宗教の教団や埋蔵金伝説が木下の背後に見えてくることで、英治たちは2人の救出作戦に立ち向かう…というあらすじです。

新興宗教~モチーフはオウム真理教?

宗田が「ぼくらの大冒険」のテーマに据えたのは「新興宗教と洗脳」です。刊行された当時の社会背景を考えると、これはオウム真理教の一連の事件をモチーフにしたと思って間違いないでしょう。(オウム真理教ほどではないが、合同結婚式で知名度を上げた統一教会も宗田の頭にはあったかもしれません)

ストーリーの詳細は皆さんに読んでいただきたいのですが、英治たちは木下の力を借りて、勇躍と仲間の救出作戦に乗り出します。現実は、皆さんの多くもご存じのように、こううまくはいきませんでした。

教祖・麻原彰晃に率いられたオウム真理教は、坂本弁護士一家殺害事件や国会進出をもくろんだ衆議院議員選挙への立候補と落選を経て、教団として狂気の度合いを増幅させていきました。「大冒険」が刊行された8年後の1997年、教団は日比谷駅でサリンを散布して大量殺人テロを引き起こし、その直後に本山の山梨・上九一色村に警察が強制捜査に踏み込みます。逮捕された、首謀者の麻原と事件を主導した信者たちはどうなったのか?麻原は最後まで罪を認めることなく、信者のいく人かも洗脳が解けることのないまま、ことし2018年の7月、死刑を執行されました。

登場する中学生たちに芽生える恋愛模様

「ぼくら」シリーズを「全巻を大きな一つの物語としてとらえる」ことを意識したとき、この「大冒険」から、登場人物の中学1年生たちの相関図に恋愛模様が入ってくることは見逃せません。

<久美子は、暗い窓の外に目を向けたまま、何かに耐えるように唇をかみしめている。

―安永が好きなんだなあ。

 安永がいなくなって、英治ははじめて久美子の気持ちがわかったような気がした。

 見ているとかわいそうになってくる。と同時にうらやましくもなる。なんと説明していいかわからない、複雑な心境だった>(P169)

 

< 炎の向こう側で、膝をかかえて炎を見つめている純子の顔が、暗くなったり明るくなったりする。

 英治は、これまで純子をいつも見ているが、こんなにきれいだと感じたことはない。

 それは、現実ではなく、幼いとき読んだ童話の世界のお姫様みたいに思えてくる。

 思わず見とれていると、胸の奥に火が燃え移ったような気がした。>(P279)

 

悪い大人や理不尽な社会に立ち向かったり、仲間と連帯することと同じように、彼ら/彼女たちは恋愛を通じて、それぞれの成長ぶりを読者に見せてくれます。